ボードゲームデザイン|「シンプルで奥深い」を疑え
今回の記事は、Board Game Design Advent Calendar 2016七日目の記事となります。ボードゲームの制作歴は1年半とまだまだ短いですが、その中で気づいたことを共有していきます。少しでも皆さまの参考になれば嬉しく思います。
「シンプルで奥深い」を疑え
前日のカズマさんの記事を読んでいて非常に共感した部分がありました。
「ハゲタカ」「ニムト」を遊んで、「シンプルで奥深い」システムに一度はみんな憧れると思うんです、あえて言い切っちゃいますけど。だけどそれ、一番難しいはずなんです。削ぎ落として最低限で面白さを演出するのは並大抵でない。
今回のテーマの着想はまさにここから始まります。「シンプルで奥深い」は、ボードゲームに対する最高の賛美のひとつだと思います。近年のゲームマーケットでも「シンプルで奥深い」のキャッチコピーをよく見かけましたね。
しかし、ゲーム制作の一歩目からココを目指すのは非常に困難です。無理に両立させようとすれば、中途半端で特徴のない作品に留まってしまうことも。
まずは、「シンプル」と「奥深い」、どちらを重視するのかハッキリさせることが重要だと私は思います。
奥深いゲームって?
私はゲーム制作の過程でシンプルさを捨て、奥深さに舵を切りました。既存のメカニズムを使ったゲームでは、シンプルで洗練された名作を超えられないと考えたからです。
また、カズマさんが述べていた通り、“要素を追加して面白さを増やす方がずっと簡単”だとも思いました。
では、奥深いゲームってどんなゲームでしょうか?答えはいくつもあるかと思いますが、今回は「展開に幅があり、遊ぶたびに新しい発見があること」を奥深さとして考えてみましょう。
※シンプルなゲームづくりについては言及しませんが、既存の作品を超えようとするならば新しいメカニズムをつくり、その行為自体が単純に楽しい!ということが大切だと思います。
展開に幅をもたせるには?
パッと思いつくのは「ランダム要素」です。アブストラクトというジャンルを除けば、多くのゲームにランダム要素が入っています。
山札やダイスはまさにランダム発生装置ですし、他にも資源をランダムに袋から出して配置したり、1回のゲームで一部のカードしか使用しないという方法もあります。
「選択肢を増やす」ことでも展開に幅を持たせることができるでしょう。例えば、ランダム要素のない囲碁は、石をおく位置にたくさんの選択肢があり、その選択の積み重ねが複雑さを作っています。
また、選択肢を増やすことで他プレイヤーの行動が予測しづらくなり、結果として他プレイヤー自体がランダム発生装置として働くことも考えられます。
これらの方法で展開の幅を作っていけば、思考量も増えて奥深いゲームがつくれるはずです。しかし、新たな問題が生まれます。
複雑さは「見通しの悪さ」を生む
展開の幅は、裏を返せば「複雑さ」とも言えます。そして、その複雑さを十分に予測できなかったり、勝つために何をしたらいいのか分からない状況をひとは「見通しが悪い」と言ったりもします。
次は、複雑さが生み出す面白さを保ったまま、「見通しの悪さ」を解消していく方法を考えてみましょう
複雑さの中に「見通しの良さ」をつくる
まず、「見通しの悪さ」には、以下の2つのパターンがあります。
①何をすべきかのヒントがない(少ない)
例えば、「はげたかのえじき」の得点カードが全て5点だったら……手札1~15のどれを出せばいいのか見当もつきません。
プレイヤーが意味のある選択をするためには、その根拠が必要です。非公開情報を減らす、似たような選択肢に変化をつける、プレイヤーの意図を可視化するなどの方法が考えられます。
また、ランダム要素の幅を狭めるのも手です。例えば、「海底探検」のサイコロの目が1~6だったらどうだったでしょう?きっと面白さを阻害するほど運の要素が強くなっていたはずです。1~3のダイスを2個つかうことで期待値を操作し、「だいたいは読めるけどたまに大きくブレて予想外の展開が起こる」という調整が行われています。
ゲーム展開の幅と予測可能性のバランスを調整してみましょう。
②ヒントはあるが、過程が複雑すぎる
ゲームに慣れてくればすべきことが分かってくるが、最初は何をしたらいいのかさっぱり分からない……奥深いゲームにありがちな悩みです。
場合によっては、奥深さに辿りつかないまま封印されてしまうことも…。
これには、初期資源や目的カード等を作ることで、ゲームの指針を提示する方法があります。序盤では初期資源を活用したり、目的達成を目指してゲームを進められるようデザインし、奥深さまで導いてあげましょう。
さいごに
今回は概要のみに留めさせていただきましたが、機会があればより具体的な事例を紹介したいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。また、Advent Calendar を企画してくださった I was game さんにも感謝いたします。
ゲームマーケット2016秋では、以上の内容を念頭に作り直した「狼と七日間」というゲームを再販します(サークル名:「ゆるあ~と」)。改良版ではどうやって展開に幅を持たせ、どのように見通しの悪さを解消したのか、後日記事をわけて綴る予定です。そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。よろしくお願いします。
狼と七日間
— ゆたか (@yutaka_88) 2016年12月3日
こんな感じのワーカープレイスメント&エリアマジョリティ、そしてバッティングまで合わさった作品となってます!
そんなに詰めこんで大丈夫なのか?!……大丈夫です!!
ただし、見た目よりも重いゲームですので、ぜひルールを読んでから購入をご検討いただければと思います。 pic.twitter.com/cNhGKtOcER
明日は「Wolf & Hound」や「オツカイフクロウの苦労話」などユニークなゲームを作っていらっしゃる梟老堂さんの記事ですよ!楽しみですね!